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おばあさんは、視線を孫娘に移しながら話し始めた。
「何から話そうかね」
「そうだねえ。おばあちゃんと、おじいさんは幼なじみでね。小さい時は、よくあの公園で遊んだもんだよ」
「おばあちゃんが、おじいちゃんを異性として意識し始めたのは、中学生になった頃からかね」
公園を見つめていた娘はおばあさんに向き直る。
「違うよ、おばあちゃんの事ではなくて、大きいおばあちゃんの話よ」
おばあさんは困った表情で、考え事をするように目を閉じる。
「解っているよ。でも、ちょっと我慢しておくれ。順々に話さないと、うまく話せれないからね」
おばあさんは、再び公園を見つめる。
「そう。幼なじみのおじいちゃんを意識し始めてからは、一緒に遊ぶ事もなくなってね。それまでは毎日のように、公園でかくれんぼしたり、砂遊びしたりして、どろんこになってお風呂も一緒に入ったりしていたのにね」
「いつも、四人一緒だった」「おばあちゃんが、おじいさんと会わなくなって、お姉さんとおじいちゃんのお兄さんも自然に会わなくなったんだけどね」
「お姉さんとお兄さん、二人がお互いをどう思っていたのか?その頃のおばちゃんには解らなかったけどね。まあ、自分の事で、頭の中はいっぱいだったんだけどね」
「でも一度、こんな事があったね」「あれは幼稚園の頃かね。公園で遊んでいた時にね、野良犬に追いかけられた事があってね。四人はてんでバラバラに逃げたんだけど、お姉さんだけが逃げ遅れて、滑り台の上で泣きじゃくっていて、下では野良犬が吠えまくっていて、降りるに降りられない状態でね。親はいないし、私たちまで泣きそうになってしまった」
「そうしたら、お兄さんが突然、ワァーって叫びながら走り出して、滑り台と野良犬の間に立って、こう、両手をひろげてね。野良犬を睨みつけるんだけど、足はガクガク震えているし、涙は出ているし、その内に、おしっこまで漏らしちゃってね。とても、かっこいいとはいえなかったね」
娘は、「フフッ。充分、かっこいいわよ」と話しながらも、笑いをこらえるのに必死のようだった。
「大山倫太郎なんて、強そうな名前なのにね」
「倫太郎って。おじいちゃんのお兄さん、倫太郎っていうんだ」
娘は大きくうなずきながら続けた。
「大きいおばちゃんが、いつもネックレスにしてつけていた結婚指輪のイニシャルが、それで R.Oなのね」
部屋の隅で、じっと二人の会話に聞き入っていた私は、驚いた。

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2008.07.30 Wed l 小説・桜の花嫁 l コメント (0) トラックバック (0) l top
たとえば不意に呼び止められたように
振り返らなかったら
会えなかった人でしょうか
一杯の珈琲に
出会いのやさしさがあるように
一服の紙巻煙草に
神話ににた黄金色のやすらぎがある
only one,only for you.
たとえば不意に呼び止められたように
振り返らなかったら……
2008.07.29 Tue l l コメント (0) トラックバック (0) l top
日溜まりの愛
顔をなくした恋人たち
抱き合ったまま聞き耳をたてる
寂しさが血を流す
ひとつの風景として
あらゆる恋人たちからの認識を拒絶しよう
匿名の孤独たち
不意に肩寄せる存在の曖昧さを拒絶しよう
冬眠形式の愛のように
ひとつの風景として
2008.07.27 Sun l 散文 l コメント (0) トラックバック (0) l top
先ほど、枕元で目頭を押さえていたおばあさんと、孫娘であろうか、目鼻立ちのキッリとした芯の強そうな娘の二人は、話をしながら部屋に入ってきた。
私がいる事に気がつかないようだ。
私も二人の会話に興味をそそられ、怒る事もせず、そのまま押し黙っていた。
「ねえ、おばあちゃん。大きいおばちゃんの彼氏って誰なの?」
「ねえ、おばあちゃん。教えてよ」
おばあさんは窓際に近づきながら話し始めた。
「やれやれ、どうして、そんな事に興味があるのかねー」
「お姉さんの好きになった人は、お前のおじいちゃんのお兄さん」
おばあさんは公園を見ていた。
「え!」
「私の旦那さんのお兄さんだよ」
娘は窓際のおばあさんの横に並んで立つと、おばあさんの横顔をいぶかしそうに見つめた。
「だって、おじいちゃんのお兄さんは、若い時に、亡くなったって…」
「そうだよ。20…3、4の頃かね。ほら、見えるだろう?」
「あの、公園の桜の木の下で」「交通事故だったんだよ」
「はじめてのデートの日にね。本当に。運命だったんだね」
娘は公園の桜の木を一瞥すると、再びおばあさんの横顔を見つめた。
おばあさんは、娘を見る事なく、公園の桜の木をを見つめ続けていた。
「でもさっき、昨日まで大恋愛をしていたって」
「そうだよ。その日からお姉さんの大恋愛が始まったんだよ」
「お前には、まだ解らないかもしれないね。私もね、おじいさんに先立たれて、最近やっとお姉さんの気持ちというか、心というか。愛ってこういうものかも知れないって、思えるようになったんだよ」
娘はムッとした表情を浮かべると「失礼ね。人を愛する気持ちは」おばあさんは娘の言葉をさえぎって話を続けた。
「どういったらいいだろうね。上手く説明出来ないけれど、見ることができたり、触れることができたりする愛って不確かな物なのかも知れない。お前のフィアンセにしたって、病気かもしれないけれど。それはそれで、辛いだろうけれどね」
娘は視線を公園に向けながら、つぶやいた。
「辛くなんか、きっと。きっと」
「そうだね。お姉さんの事、知りたいかい」
「ええ…」娘は公園を見つめたままだ。

2008.07.26 Sat l 小説・桜の花嫁 l コメント (0) トラックバック (0) l top
脹らみ始めた胸
曖昧な生存
血液の香
愛の方程式
世界を聴覚で認識してしまったように
確かな一日が終わる
2008.07.25 Fri l 散文 l コメント (0) トラックバック (0) l top
リズミカルな血の音
季節外れの雪を見た蚊
光を透過する蚊
おまえの生は裏返され
私の肉体として生きている
リズミカルな血の音
季節外れの雪を見た蚊
行方不明の夏が
おまえの美しさを崩壊していく
語る事はない
夜空に浮かんだ言葉を書くために
語る事はない
すくなくとも
時の匂いがするおまえの肉体に
語る事は
ひとつもない
2008.07.24 Thu l 散文 l コメント (0) トラックバック (0) l top
あなたの美しさは食べられますか
あなたの美しさは食べられますか
愛の言葉に
重さがなかったとしても
風に吹かれて
首うなだれたひなげしのように
あなたの指は素敵な匂いがします
あなたの美しさは食べられますか
空腹である私
ひっそりと
とてもひっそりと
笑いたい私
窓ガラスに溶け込んだヒドリガのように
あなたは死ねますか
2008.07.23 Wed l 散文 l コメント (0) トラックバック (0) l top
怒りすら沸いてこない。
今ここで起こっている事に、私は、ただ呆然としていた。
気持ちの整理がつかないまま、私はいつもの公園を眺めていた。
『あの日、何が起こったのだろう』
『どうして、あのおばあさんの通夜が、ここで行われているのだろう』
私は混乱していた。いくら記憶をたどってみても、解答の糸口さえ見つからない。
『そもそも、あり得ない事だ。こんなことは』
『ほんの数日前に、はじめて会った身も知らない人間の、言葉すら交わした事のない人間の、通夜を、家主に断りもなく執り行うとはどういうことだ』
『非常識、極まる』
私は、次第に怒りを感じ始めていた。
『とにかく、出て行ってもらおう』
『あのおばあさんが何者なのか、私とどんな関係があるのか、あのウエディングドレスと何か関係があるのか?聞きたい事は、山ほどあるが、とにかく今は、出て行ってもらおう』
意を決し、公園に背を向けたその時、誰かが二階に上がってくる足音が聞こえてきた。
「ねえ、おばあちゃん」「大きいおばあちゃんて、いくつだったの?」
「私と2つ違いだから、今年でちょうど80だね」
「大恋愛したんでしょ。お母さんからちょこっとだけ聞いた事があるの」
「うーん、そうだねー」「大恋愛をしたと言うか、していたんだね。昨日まで」
足音は、私の部屋の前で止まった。
扉が開く。
「え!どういう事。彼氏は今も生きているの?」
2008.07.21 Mon l 小説・桜の花嫁 l コメント (0) トラックバック (0) l top
ぱらそるに隠れて駆け抜けた少女の
位置を立証する事はできない
人間不在の街角で生き過ぎてしまった男の
丸い背に枯葉が突き刺さる
地名のない地図が綿毛のように震える頃
現実と理想の境界に
身投げした伝説のように
未来形としてではなく過去形として
歩行者の生活は始まる
たとえば 生が存在すると
語り始めなかったら
屍の重力を信じる事はできないだろう
起点のない街角に飛行の夢が青く
息を吐いたとしても
ぱらそるに隠れて駆け抜けた少女の
位置を立証する事はできない
2008.07.20 Sun l l コメント (0) トラックバック (0) l top
花びら一枚散る音の響く夕暮れ
幻想を見る
日常の戯れに流れる血にくちづけする
せめてひとつの風景として
2008.07.19 Sat l 散文 l コメント (0) トラックバック (0) l top
それから、数日後。
階下の物音で私は目を覚ました。
多くの人の声、廊下を急ぎ足で歩く音。空巣にしては大胆すぎる。
足音を忍ばせて階下に下りる。
いったい何が起きたんだ。見知らぬ人々が、処狭しと動き回っている。
数人は近所で見たことのある人だが、ほとんどの人が今初めて見る人々だ。
一様に黒い服を着て、忙し気に動き回っている。誰一人として、私に気づいて声をかける人がいない。何かに取り付かれたように、私の脇を通り過ぎていく。
いったい何が起きているのか理解出来ないまま、私は声をあげることも忘れてその場に立ちすくんでいた。
玄関の扉は開いていて、その向こうにも多くの人々が詰め掛けているのが見える。
事体がのみ込めないまま、玄関脇の和室に入ると、布団が敷かれていて、黒い服を着た数人の人が布団を取り囲むように座っていた。
ハンカチーフで目頭を押さえる人。その肩にそっと手をおく人。頭を垂れ目を閉じている人。布団の皺を直す人。声を潜めて何やら語り合う人。
『これではまるでお通夜のようではないか?』『誰の?』『私は一人暮らしだぞ』『どうして?』
布団には先日の白い子犬を連れたおばあさんが寝かされていた。いや違う。
先日のおばあさんは、枕元で目頭を押さえている。いや違う。
よく似てはいるが、やはり、布団に寝かされているおばあさんが、先日のおばあさんだ。
『にしても、一体全体何がどうしたというんだ』
あまりにも理解不能な出来事を前にして、呆然自失状態のまま私は二階の室に戻った。

2008.07.18 Fri l 小説・桜の花嫁 l コメント (2) トラックバック (0) l top
「あの日も、こんな小雨が降る日だったねー」
おばあさんには私の声が聞こえないばかりか、姿すら見えていないようだった。
「はじめてのデートの日だったんだよ。
一年前、お前とあったあの桜の木の下で、待ち合わせをしていたんだよ」
何かを思い出したようにクスッとおばあさんが笑う。
「リン。あの日のお前と来たら、本当に汚かったねえ。炭のように真っ黒で…。
小さな段ボールの中で、鳴きもしないでじっと私の方を見ていたねー。
その目が何となくあの人の目に似ていたんだよ。そう、あの日のあの人の目にね」
おばあさんの胸でリングが揺れる。結婚指輪のようだ。
「とってもやさしくて、とっても強くて、愛情に溢れていたね。どうしてだろうね。
あの人にしても、お前にしても、どうしてだろうね」
「さあ、リン。帰ろうかね」「雨の所為かね、ちょっと疲れたみたいだよ」
おばあさんは腰を上げて、公園の出口に向かって歩き始めた。
私は一人、桜の木の下に取り残されたまま、いつまでも、おばあさんの後ろ姿を見ていた。
何かが、何かが胸の奥で叫んでいた。

2008.07.17 Thu l 小説・桜の花嫁 l コメント (0) トラックバック (0) l top

戯れに朝顔咲けり
白く咲けり
朝顔が咲けり
白く 白く咲けり
死に絶えた風景の中
朝顔白く咲けり
記憶された季節のぬくもり
朝顔咲けり
戯れに白く 咲けり

2008.07.15 Tue l l コメント (6) トラックバック (0) l top
外は雨
季節の無表情な安息
見慣れた風景の中の、見慣れた幸福
新たな血を流す傷跡の認識の痛みに
言葉を忘れる
血液との美しい関係
外は雨
新たな血液を獲得するために
やさしさを裏返す
季節の無表情な安息
そして
人生の欠伸に
私の血は逆流する

2008.07.13 Sun l l コメント (0) トラックバック (0) l top
「リン、どうしたんだい。なにかいるのかい」
おばあさんは白い子犬に向かって話しかけていた。
リンと呼ばれた白い子犬は、なおも吠え続けていた。
「リン。リン。どうしたんだい」
リードを持つ手に日傘を持ち替えて、その場に腰をおとして白い子犬の頭を撫でる。
「リン。」
「おまえとも、後しばらくだね」白い子犬は、おばあさんの胸に頭をすり寄せる。胸でネックレスのリングがゆれる。
「あのー」聞こえなかったのか。おばあさんは白い子犬の頭を撫で続けている。
「すみません」「すみません。おばあさん」聞こえないのか、顔を上げることもなく、おばあさんは白い子犬に向かって話しかけていた。
私は少し苛立ち始めた。「おばあさん。すみません。おばあさん」
私はおばあさんに近づくと、一語一語区切るように大きな声をあげる。
「お ば あ さん。 き こ え ますか」
白い子犬は再び吠え始める。「リン、どうしたんだい」
おばあさんには、聞こえないようだ。
「もう、60年経つんだね。あれから、あの日から60年」
おばあさんは白い子犬の頭を撫でながら、語り始めた。

2008.07.12 Sat l 小説・桜の花嫁 l コメント (0) トラックバック (0) l top
桜の木の下におばあさんの姿はなかった。
それからというもの、私は毎日公園に出かけ、桜の木の下で白い子犬を連れたおばあさんを待ち続けた。
何故かは解らないが、会いたかった。意味も無くただ会いたかった。
それから、またひと月。
その日は、朝早くから雨が降っていた。私は いつものように桜の木の下で、白い子犬を連れたおばあさんを待っていた。
桜の木を見上げると、あの日のように今でも白く透き通るようなウエディングドレスが巻き付いているような気がする。
何故か急に涙が溢れてきた。景色がかすむ。
雨と涙で桜の木は教会のように白くぼんやりと、空に浮かんで見えた。
遠い昔、こんな景色を見たような気がする。
なつかしく、せつなく。涙は流れ続けた。
犬の鳴き声が聞こえてくる。涙を拭いながら振り返る。
そこにおばあさんが立っていた。ひまわり模様の日傘をさして、同じ模様のワンピースを着たおばあさんが、白い子犬を連れて立っていた。

2008.07.11 Fri l 小説・桜の花嫁 l コメント (0) トラックバック (0) l top
精霊際の夕焼けに紅く染まった蜻蛉
血だらけの貧しさ
地平線の孤独
繰り返される蜻蛉返り
古里の空が紅く染まる

2008.07.10 Thu l 散文 l コメント (0) トラックバック (0) l top
青空の悲しみ
愛の温度
遠い昔の夢
心を化粧する
メルヘンはもう現実ではない

2008.07.09 Wed l 散文 l コメント (0) トラックバック (0) l top
あれから、ひと月。
公園での出来事は、事件性はなく、いたずらということで処理されたようだ。
結局、ウエディングドレスの持ち主は不明のまま、地面の下からはマネキン人形が一体発見されただけで、他にはこれといったものは何も出てこなかった。
ただ、マネキン人形の指に結婚指輪がはめられていたこと、その指輪にはR.Oとイニシャルが彫られていたことだけが、わずかに話題になったが、それも次第に人々の記憶から消えていった。
私と同じイニシャルということで、あの日の刑事が 何度か私を訪れたが、それも今はない。
そんなある日、あの日と同じように、私は公園を見ていた。
白い子犬を連れたおばあさんが、あの桜の木の下でお祈りをするように、顔の前で両手をあわせていた。
ネックレスであろうか?おばあさんの胸の辺りで何かが光った。
その時、あの日の全身の毛が逆立つような違和感を私は再び感じていた。
おばあさんに会って話をしなければ、そんな使命感ににた想いが私を包んだ。
急いで公園に向かう。
なぜだかは解らない。何をしようとしているのか、何を話そうとしているのか、解らない。
ただ私は急いでいた。

2008.07.08 Tue l 小説・桜の花嫁 l コメント (0) トラックバック (0) l top
私は何を忘れたのか。
流れない血。
蜻蛉の屍骸がひとつ。濡れたアスファルトに横たわる。

2008.07.07 Mon l 散文 l コメント (0) トラックバック (0) l top
椿一輪
狂い咲き
青い頬した少女の
笑顔
狂い咲き
2008.07.06 Sun l 散文 l コメント (0) トラックバック (0) l top
数人の警察官が現場保全のために、たち動いている。
直に公園からの退去を命ぜられるだろう。
私はできるだけ、桜の木に近づいて白い布らしきものを見つめた。
それは、ウエディングドレスだった。
白く透き通るような、真新しいウエディングドレスだった。
それは汚れひとつなく、おろしたてに見えた。
朝の光に包まれて、神々しくさえも見える。
確かに、このような場所になぜ。という不思議さはあるが、レースの房飾りが朝露のように輝き、生臭い事件と関わりがあるようにはとても見えない。
唯一、ウエディングドレスが巻き付いた枝の下の地面に掘り起こされた形跡が残っていて、そこだけが、妙に生々しさを感じさせた。
しばらくの間、私はその場に立ちすくんで純白のウエディングドレスとその下の地面を見比べていたが、警察官に促され、公園を後にした。
2008.07.05 Sat l 小説・桜の花嫁 l コメント (0) トラックバック (0) l top
いつか自らも
美しい風景になりたいといういう願い

私は私の夢を生活している
うっとりするような空気の中で
傷ついた蝶が死んでいく
忘れた記憶を拾い集めながら
自然の暗さに接近していく

指であなたの乳房をなぞる
紅く  愛の文字
笑い声が響く
あなたの肉体が夢を見る

私は泣きながら産まれた
そのとき人々は笑った
私は笑いながら死んだ
そのとき人々は泣いた

遠さという距離
愛という距離
回転する日常
落下する欲望
私とあなたは光になり
闇の中で眠る
2008.07.04 Fri l l コメント (2) トラックバック (0) l top
早朝、自宅の窓から見ていた公園は朝もやに包まれて静かに眠っているようだったが、今は慌ただしくひと月前の花見の宴のような喧噪に包まれていた。
携帯電話を片手に大声で叫んでいる人、公園内を指差しながらひそひそ話をしている近隣の住民たち、カメラを手にした人たち、落ち着きなく周囲を見回す人、ゴミ袋を手に立ちすくんでいるサラリーマン風の人、歯ブラシを口にくわえた人、走り回る警察官、多くの人の意識が公園内に向かっていた。
私は普段、人々の動向を観察するのが趣味のような人間だが、いまはとにかく桜の木がある方向に向かって、足を速める。
指先が痛む。階段を下りるときにどこかにぶつけたらしい。右足の小指の先が血に滲んでいた。
先ほど自宅を訪問した警察官と刑事が足早に私の前を同じ方向に向かっている。
やはり、あの白い布は何か事件と関わりがあるらしい。
桜の木が見えてきた。
2008.07.03 Thu l 小説・桜の花嫁 l コメント (0) トラックバック (0) l top
倒れそうになりながら、玄関の戸を開ける。
二人の男がそこに立っていた。ひとりは制服を着た警察官、その前に紺色のネクタイにグレーのスーツを着た、いかにも体育会系といった感じの40代と思われる中年の男。
スーツの男は「朝早くからすみませんね」と言いながら、内ポケットから黒い手帳を私の顔の前で拡げてみせた。続いて、矢継ぎ早に次から次へ質問をあびせかける。
まるで私の返答などどうでもいいかのように、質問に答える前に次の質問があびせられる。
おおむね、「何か物音は聞こえなかったか?」「不振な人物を見かけなかったか?」「あなたは昨日何をしていたか?」と言った内容だ。次第に公園の周りが騒がしくなってきた。
私は「何か事件ですか?」「何があったんですか?」スーツの男の質問に答えながら、質問する。
あの桜の木に巻き付いた白い布らしきものが何であるのか、近くにいって一刻も早く確かめたかった。警察官の早朝の訪問と関わりがあるのか確かめたかった。
視線は既に公園に向かっていた。
「ではまた、何か聞きにくるかもしれませんが、よろしく」
スーツの男はそういい残すと、公園に向かって歩き始めた。
私も後を追う様に、公園に向かう。
2008.07.02 Wed l 小説・桜の花嫁 l コメント (0) トラックバック (0) l top
何かが違う。何かが。
苛立たしげに繰り返しインタホーンがならされる。
舌打ちをひとつして「はいはい。いまいきますよ」とつぶやきながら、公園から視線を外した瞬間、視界の端に残像のように白いものが見えたような気がして、再び公園を凝視する。
せき立てられるように、入り口から奥に向かって確認していく。
インターホンが再びならされる。
あった。これだ。
見慣れたはずの公園に感じていた違和感。公園のほぼ中央に憩いの泉と名付けられた噴水池があり、そこから奥の雑木林に続く散策路の片隅に、樹齢百年といわれるソメイヨシノの古木がある。その一本の枝に白い布らしきものが巻き付いていた。
インターホンが再びならされる。
私は転がるように階下に向かって走った。

2008.07.01 Tue l 小説・桜の花嫁 l コメント (0) トラックバック (0) l top
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